行政書士 大熊登喜事務所

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行政書士がサポートする終活

ファイル№4 閑話「終活?或る3人の話」

 終活をこうすべき、ああすべきと誰かが言っても、その誰かが話す終活と自分の思う終活がかけはなれているということも、現実にある話です。高齢者の数だけの終活があるわけですから、「終活」と身構えることなく生活していく方はきっと多いと思います。
 「行政書士がサポートする終活」では手続き的な話や、知っておく知識の話を元に進めていきますが、今回はケアマネージャーさんにお聞きした或る3人の話を紹介したいと思います。

 さと子さん(仮名)

 さと子さんは夫と二人暮らし。そのご主人は2年前に脳管出血をして、手足に麻痺が残りました。けれどリハビリを頑張ったお陰で、要介護1の歩行器を利用すれば歩けるところまで回復をしました。
 けれどさと子さん、そんな夫に構っている暇はありません。「自分のことは自分でやりなさい!」と、なかなか厳しい。それと言うのもさと子さんは本当に忙しいのです。
 老人介護施設の厨房でチーフとして働いていますから。勿論、フル勤務の正社員です。会社からは「あなたに辞められたら困る」と言われています。車も運転し、朝4時からの早番、帰りは20時になる遅番もこなし、1日80名のお年寄りの食事とスタッフの食事を作っているのです。「仕事があるから元気でいられるのよ。仕事中はぼーっとしている暇はないのよ」と、笑って話します。「あと3年位は働けるかしらね〜。終活?普通に片付けもろくに出来てないのにそれどころじゃないわ」と言う彼女は80歳です。

 花江さん(仮名)

 チェーンソーの音をバリバリたてて、植木の手入れをしている彼女の顔と手は真っ黒に日焼けしている。「帽子を被っていても、真っ黒になっちゃうよ」と振り返って笑います。
 自家用だと言いながら、お米に始まり、大根、玉ねぎ、ジャガイモや、季節の野菜を春夏秋冬30種類ほど作っています。大根ひとつでも、切り干し大根、たくあん漬などにして、その上蒟蒻作りなどの加工品も作ります。
 朝は掃除、洗濯、お風呂洗いをして、日の暮れるまで畑仕事に精を出します。畑仕事に熱中しすぎて、お孫さんに「ばーちゃん、いつまでやってんの?」と声をかけられて家に上がれば、長男夫婦と孫は晩ご飯を食べ終えていることも珍しくないと、笑います。
 そんな彼女は、92歳。もう歳なんだからと娘に言われてからは、通帳もハンコもキャッシュカードも長男に預けています。「お金は必要な分を長男に下ろしてきて貰っている」と、言い「今度は新しい野菜を作ってみようと思ってタネを蒔いた」と楽しそうに話しをしてくれたそうです。

 利子さん(仮名)

 「独りでも大丈夫よ。姪や甥もいるから、いざとなればあの子達が面倒見てくれるわよ」 利子さんはおおらかに言う。けれどそう言われた姪や甥は、叔母には困っていてケアマネには利子さんの思惑とは真反対のことを言う。「何かっていうと、うちの子供達が小さい頃面倒を見てやったとか、いつも恩着せがましいことばかり言って‥、本当に迷惑なんです。倒れたりとかしても家は関係ないですから。ケアマネさんにははっきり言っておきます。叔母には実の姪甥もいるのだからそちらを頼るように言ってください」
 そんな話があってわずか10日後、彼女は庭先で転倒をする。その場はなんとか這って玄関まで来てから再度倒れてしまいます。その後訪ねてきたヘルパーさんにより発見されて、救急搬送になりました。
 医師からは「早く家族を呼んでくれ。手遅れになる」と言われ利子さんが面倒を見てくれると思っている姪に電話をするも、「家は関係ないって言いましたよね!病院へは行きません!」との返事。それならばと実の姪甥に連絡するも同様に、家は関係ないとの主張ばかり。
 結局、彼女は1週間後に亡くなりました。お骨も引き取らないと固辞されましたが、民生委員さんのお骨折りで某お寺に埋葬することができました。

 自分では終活をちゃんとしていると思っていても、実際は何一つちゃんとできていなかった。利子さんのケースは自分だけがこう思っているのでは、ダメなのだという事例でした。
 「話し合っておくって大切ですね」ケアマネージャーさんは短く言いました。

 終活は自分一人では完結しません。病気・介護・居住・家庭内事情等様々な解決すべき問題があり、解決に至るには多くの専門家・行政機関・地域と関わりを持ち協力をしあわなければなりません。そして最も係る家族間も含めて「話し合う」ことが問題解決の重要な手段であることは間違いないでしょう。

バックナンバー

  1. 「はじめに」
  2. 「エンディングノートと2冊のマイファイル」
  3. 「ネームファイル1頁表:戸籍 裏:家族相関図」